コンピテントセルの作り方とコンピテンシー
高効率のコンピテントセルの参考文献として、1990年に発表された井上先生の論文があり、この報告に基づいてプロトコールが作られている。
Inoue H, et al., Gene, 96, 23-28(1990)
Molecular Cloningの3rd Editionにおいて、詳細に解説されているそうだ。
コンピテントセルの作り方
1. SOB培地とトランスフォーメーションバッファー (TB)を作る。
2. -80°Cから取り出した大腸菌をLBプレートにストリークし、37°Cで一晩培養する。
3. 直径2〜3mmのコロニーを250mlのSOBの入った2Lの三角フラスコで18°CでOD600が0.6になるまで培養する(200〜250rpで激しく震とうする)。32時間程度培養することになる。
4. 氷上で10分間冷やす。
5. 培養液を6本の50mlのチューブに移し、4°Cで3,000rpm、10分間遠心する。(大容量のボトルを用いることができれば、50mlのチューブを使ってちまちまやらずにすむのだが、ここではボトルがない場合を想定している。)
6. デキャンタで上清を除き、残りも5mlのホワイトチップ等で除く。
7. 6本の50mlのチューブにトータルで80mlの氷冷したTBを加え(正確に80mlを6等分して分注する必要性はない)、ペレットを懸濁する。
8. 2本の50mlチューブにデキャンタで懸濁液を移動し、氷上で10分間冷やす。
9. 4°Cで3,000rpm、10分間遠心する。
10. デキャンタで上清を除いた2本の50mlチューブに10mlのTBをそれぞれ加えて混ぜる。
11. 1つの50mlチューブにまとめ(約20mlの懸濁液)、最終濃度7%になるようにDMSO(約1.4mlのDMSO)を加える。
12. 氷上で10分間冷やす。
13. エッペンに分注したものから、すぐに液体窒素に入れて10分間以上待つ。
(このコールドショックのプロセスを経ないと効率は非常に落ちる。)
14. -80°Cで保存。
SOB培地とTBバッファー
1. SOB培地の作り方
Bacto Trypton 20g
Bacto Yeast Extract 5g
5M NaCl 2 ml
2M KCl 1.25ml
これらをSP水でtotal990mlにしてオートクレーブする。
2. Transformation Buffer (TB)の作り方
PIPES 1.5g
CaCl2 H2O 1.1g
KCl 9.3g
これらを400mlのSP水に溶解後、5M KOHでpH6.7〜6.8に合わせる。
次に、MnCl2 4H2Oを5.45g添加し、500mlにメスアップし、濾過滅菌し、4°Cで保存する。
生LBプレートの準備と減菌操作
大腸菌を扱い慣れてない場合、必ず大腸菌の取り扱いを学んでから作業する。コンピテントセルやその画線培養に用いる生のLBプレートは、汚染しないように必ず然るべき方法で作業しなければならない。減菌操作は大腸菌を扱う上での基本操作である。
トランスフォーメーションの作業ではアンピシリン等の抗生物質が塗布されたLB寒天培地を用いるので、汚染に関してはほとんど気にする必要性が無い。そのため、減菌操作は忘れがちである。しかし、コンピテントセル作りにおいては、基本に忠実に操作を行い、汚染の可能性を排除しなくてはならない。生のLBプレートを作るときには、必ずガスバーナーの近くで作業する(減菌操作)。当然、コンピテントセルを分注するときも同様に行う。
コンピテンシーのチェック
コンピテンシーとは、1μgのpBR322をトランスフォーメーションしたときに得られたコロニーの数によって定義されるトランスフォーメーションの効率を表す量である。
市販のコンピテントセルでは、「1x10^8 コロニー /μg・pBR322」程度の高いコンピテンシーであり、1万倍に希釈(例えば10mlのwaterに1μg溶かす)した場合、1万個のコロニーが生えるはずである。しかしながら、通常研究室で適当に作製したコンピテントセルは10^6のオーダーであるので、1万倍に希釈したときには、100個ほどのコロニーが得られるはずである。