ChIP Assay Kit プロトコール (UPSTATE)
ChIP は、proteinXが染色体DNAの特定の領域に結合するかどうかを調べるために行う実験である。
結合タンパク質をDNAに架橋するためにフォルムアルデヒドで処理し、超音波処理により200〜1000bpにDNAを断片化する。架橋し断片化したクロマチンを不溶性のアガロースビーズに固定した抗proteinX抗体でインキュベートし、免疫沈降を行う。その後、遠心操作、洗浄、溶出を経て、 protein Xに結合していたDNA断片を得ることになる。
結合が予想されるDNA領域に特異的なプライマーを設計し、PCRを行う。その際に、適切なコントロールを置かなければ、得られた結果の評価ができないのは至極当然である。
Part A. DNAシアリングの至適化
1. ホルマリンによる細胞の固定
直接プレートに終濃度1%で(10mlの培地だったら、37%ホルムアルデヒドを270ul加える)37℃、15分間固定する。この操作により、細胞内で
タンパク質・DNAがクロスリンクされる。
2. 細胞を洗う
まず、必要量の冷やしたPBS(プロテアーゼ阻害剤を用事調整にて加える)を用意しなければならない。Complete Protease Inhibitor Cocktail Tablet (Roche)
1錠を薬包紙上で破砕し、1mlの精製水に溶かす(50×Inhibitor)。2枚の10cmプレートの細胞を使用する場合、20ml程度のPBSが必要なので、19.6mlのPBSに400ulの50×Inhibitorを溶かす。固定後に培地を捨て、プロテアーゼ阻害剤を用事調整にて加えたPBS(冷やしておく)で2回洗う。
3. 細胞の回収
1mlの冷やしたPBS(プロテアーゼ阻害剤を用事調整にて加える)を加え、氷上にてセルスクレーパーで細胞を回収し、4℃、3,000rpmで5分間遠心する(ATDC5の場合、標準の2,000rpmで4分間では細胞が落ちなかった)。
4. 細胞の溶解
PBSを捨て、室温に温めたSDS Lysis Bufferを250ul加え、vortexで撹拌し、氷上に10分間置く。この操作により、細胞膜、核膜が破壊され細胞成分が可溶化される。
5. ゲノムDNAの断片化
sonicated to an average length of less than 500 bp by using the ultrasonic homogenizer (VP-050; TAITEC) with microtip at 35% power output.
35%のパワーで10秒ずつ11回ソニケーションすれば問題なさそう。
6. 脱クロスリンク
8ulの5M NaClを加え、65℃で6時間インキュベーションする(常法4時間よりも十分に時間をかけた方が良い)。
7. DNAの精製とゲノムDNAの断片化の確認
フェノール/クロロホルム処理を行い、EtOH沈する。50ulの精製水に溶解し、アガロースゲルに泳動する。
Part B. 実験プロトコール
1. 断片化済みのサンプルを4℃、13,000rpmで10分間遠心し上清を新しい2mlチューブに移す。
2. サンプルの10倍量(サンプルが200ulだったら、1,800ul)のChIP Dilution Buffer(プロテアーゼ阻害剤を用事調整にて加える)を加えて、サンプルを稀釈する。(3920ulのChIP Dilution Bufferに対し、80ulの50×Inhibitorを加え調整。)
3. 非特異的バックグラウンドの低減
75ul protein A agarose (1.5ml beads with 600ug sonicated salmon spermDNA, 1.5mg BSA, 4.5mgrecombinant protein A / 1.5ml buffer; 10mM Tris-HCl, pH 8.0, 1mMEDTA, 0.05% sodium azide)を加え、4℃、30分間インキュベートする。この操作により、タンパク質の非特異的なレジンへの吸着を防ぐ。
4. 4℃、1,500rpmで15秒間遠心し、上清を新しい2mlのチューブに移す。40ulを別のチューブに取っておく。(この40ulのサンプルは2ulの5M NaClを加え、65℃で6時間インキュベーションし、その後DNAを精製してインプットサンプルとする。とりあえずは、4℃で保存しておく)。
5. 抗体1ug(1mg/mlの場合1ul)を入れ、4℃で6時間から一晩インキュベートする(ローテーターで回転させる)。目的タンパク質がIgGに非特異的に結合する可能性があるので、同時にネガティブコントロールとして同一サンプルをIgGとインキュベートする。
6. 60ul protein A agaroseを加え、4℃、1時間インキュベートする。この操作により目的タンパクを結合した抗体がprotein A agaroseレジンに結合する。
7. 4℃、800rpmで1分間遠心し、上清を捨てる。
8. 1mlのLow Salt bufferを加え、4℃、3分間ローテーターで回す。
9. 4℃、800rpmで1分間遠心し、上清を捨てる。
10. 1mlのHigh Salt bufferを加え、4℃、3分間ローテーターで回す。
11. 4℃、800rpmで1分間遠心し、上清を捨てる。
12. LiCl bufferを加え、4℃、3分間ローテーターで回す。
13. 4℃、800rpmで1分間遠心し、上清を捨てる。
14. TE bufferを加え、4℃、3分間ローテーターで回す。
15. 4℃、800rpmで1分間遠心し、上清を捨てる。
16. 14〜15を繰り返す。
17. ココからは、室温!Elution buffer (10mM DTT, 1% SDS, 0.1M NaHCO3)は、自作しなければならない点に留意する。NaHCO3の水溶液は加熱しなくても炭酸ナトリウム、二酸化炭素、水に徐々に分解してゆくので、用事調製しなければならない。その際に留意する点は、NaHCO3は、0℃の水に69gしか溶けないので、分子量84.01のNaHCO3は、1M溶液を作ることはできない(0.5Mで作ろう)。250ul Elution buffer (10mM DTT, 1% SDS, 0.1M NaHCO3)、室温、15分間溶出する。溶出したら、800rpmで1分間遠心し、上清を新しいチューブに移し、レジンに再び250ul Elution bufferを加えてもう一度くり返す。通常Elution buffer は1% SDS、 0.1M NaHCO3のみだが、還元剤DTT(dithiothreitol)によって抗体のS-S結合を外し、抗体を失活させた方が、溶出効率が上がる。
18. サンプル(500ul)に対し20ul 5M NaClを加え、65℃、6時間インキュベートする。この操作により、タンパク質・DNA複合体のクロスリンクを外す。常法4時間よりも十分に時間をかけた方が良い。保存してあったインプットサンプルも同様にここでインキュベートすることを忘れないこと。
19. 10ul 0.5M EDTA、20ul 1MTris-HCl (pH6.5)、 2ul 10mg/ml Proteinase Kを加え、45°Cで1時間インキュベートする。この操作によりタンパク質を分解する。PCR purification kitあるいはphenol-chloroform法によりDNAを抽出し、50ulの精製水で溶出する。このうちの5ulまたは10ulをPCRに用い
る(50ulのPCRの系の場合)。
Elution Buffer (1%SDS、0.1M NaHCO3)、10mg/ml Proteinase Kは、キットに含まれていないので、自ら調製する必要がある。
Elution Buffer (1%SDS、0.1M NaHCO3)
0.5 M NaHCO3を先に用事調製する。
1mlのElution Bufferを作るには、
200ul 0.5 M NaHCO3
50ul 20%SDS
20ul 50×Inhibitor
730ul distilled water
適切なコントロール
抗体に対するネガティブコントロール(anti-IgG antibody)と、結合タンパク質の結合が予想されないDNA領域を増幅する(PCRにおける)ネガティブコントロールを必ず置くこと。
もし、調べたいタンパク質についてすでにあるDNA領域との結合が示されているのであれば、ポジティブコントロールとして利用できるかもしれない。システムがうまく動いているのかを知る上で重要な指標となり得る。
特筆すべき留意点
実験自体そんなに複雑ではないが、普段あまり使わない超音波処理の器械や、用事調製するソリューション等がある。必ず全体の流れを把握してから実験を始めること。